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ドッスーン、シュー、モクモク   岩尾 東四郎

2008年4月掲載

 

  ドッスーン、シュー、モクモク。これは何の音かと言うと、私が初めて降りたったジャマイカのノーマンマンレー国際空港に飛行機が着陸したときの音の印象である。昨年のおよそ一年間を私はそのジャマイカで過ごした。 ドッスーンというのは、経由地のモンティゴベイ空港で大方の観光客を降ろしてしまい気楽になったパイロットが、まあ後は適当に早くビールでも飲みたいし、みたいな、かなりいい加減に着陸した時の音。シューというのはやけに気になる機内の空調の音。モクモクというのはその空調から吹き出るエアーがあっという間に白い水蒸気と変わり、機内に充満したときの感じである。そう、ジャマイカは常夏の国なので、外気温との差でこんな事になってしまうのである。
  ジャマイカの首都はキングストン。言わずと知れたレゲエ音楽発祥の地である。人口は八〇万人前後だろうか。街にはいつも何処かでレゲエが流れている。騒音条例など無いのだろう、私の借りたアパートからも毎夜大きな音でレゲエのリズムが聞こえていた。そして、そのリズムは明け方の四時ごろまで続くのである。
  可笑しいのは街を歩いているとレゲエのリズムに合わせて踊りだす人々を時々目にすることだ。それもネクタイを締めたビジネスマンやスーツにびしっと身を包んだキャリアウーマンとおぼしき人々も中にはいるのである。多分、体の中の血が黙っていられずに勝手にリズムを刻んでしまうのだ。体が勝手に動いてしまう訳だから、もちろん彼等に責任は無い。目の前を一人でもくもくと歩いている普通の人が、音楽が流れてくると突然に、操り人形のように踊りだすのを見るのは不思議な気持ちだ。しかし、これも慣れてくると操りの糸が天に繋がって見えるようになってくるので、別に不思議で無くなってくる。
  二〇〇七年九月三日、ジャマイカで総選挙があった。当時、女性首相として親しまれていたPNP党総裁であるポーシャの選挙演説をテレビで見ていた私は驚いた。レゲエバンドがステージで大音響で演奏し、広場を埋め尽くす支持者が踊っていたのである。曲と曲の合間にその女性首相ポーシャが、政権を渡してなるものかと大演説をするのだが、そのスピーチは「みんな、ノってるかい!」という、ロックコンサートのあれと同じである。(あまり英語に自信はないが、確かにそう言っていた‥と思う) そして、大方のスピーチが終わると、再びレゲエバンドが音楽を奏ではじめるのだ。その時私は見てしまった。ステージ上の閣僚と共に女性首相のポーシャが豊満な体をくねらせて踊っているのを。例えば我が国で、福田首相が演説の後踊っていたら国民はどう思うのであろうか‥。私は、世界は広くまだまだ知らない事がたくさんあると思ったのだった。次号へ つづく

(いわお とうしろう)

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