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特別寄稿 粗忽の功徳 ―幼稚園の先生と友だちに―   板垣雅夫

2011年5月掲載  

 

 子どものころからそそっかしいところがある。電車の中で「家族間は無料」という携帯電話の広告を見て、これは便利と何度も使っているうち、高額の請求書が来た。「一定条件のもとに」という小さな字を読んでいなかった。
 行政の広報誌で、土日の4日間、講習を受けると日本赤十字社救急法救急員の資格が得られることを知った。朝から晩まで4日間の受講はつらいが、じっとがまんし、居眠りでもしていれば資格を得られるのだろうと思った。
 講習に参加したその日、学科試験と実技試験に合格しなければ資格は得られないと知った。これは大変である。そそっかしさにもほどがある。一番大事なことを見逃していた。学科試験は数十年ぶりで、とても自信はない。実技もまったく苦手だ。小学校以来、音楽、図工、体育の実技系三科目はいつも四苦八苦していた。
 老若男女20人ほどの受講生の中で1人だけ、誤解でした、やめますとは言えない。講師は「覚悟して勉強してくださいよ。70点以下は不合格ですよ」と、しきりに脅す。仕方ないので、自宅で教習本相手に深夜、早朝と勉強した。
 寒いころだった。暖房を入れると眠くなる。両足を毛布でくるみ、綿入れの半てんを着て足温器を使うと頭寒足熱となり、勉強がはかどることが分かった。なんのことはない、昭和30年代の受験生そのものである。
 実技も大変だった。三角巾から包帯をつくり、それを頭や胸、手足のけがの部分に「赤十字流」で巻いていく。自己流は許されない。一度や二度で覚えられるものではない。講習会ではパートナーを決められ、交互に患者役となって包帯巻きの練習をしたが、その時間だけではマスターできない。
 自宅で、同居人を患者役として毎晩一時間ほど練習をした。顔や頭、胸に包帯を巻くためには自分の顔を相手に10センチ程度まで接近させなけれでならない。これが実につらかった。あまり接近したくない相手である。こんな練習が必要と知っていたら、最初から受講しなかっただろう。自らのそそっかしさを大いに反省した。
結果はどうにか合格した。その後、防災士の資格も得た。広報誌の記事内容の見逃しがなかったら、これらの資格は絶対に得られなかっただろう。いま、仲間たちと定期的に会合を持ち、東北関東大震災では、現地へ飛んだ若手の支援活動を行った。
 仲間は学校教師、公務員、海外経験豊富な元商社マンら。なかでも幼稚園、保育園の若い先生と知り合い、メル友にまで発展したことは大きな喜びであった。そそっかしさも時にはいいものだ。同居人相手の難行苦行を乗り越えただけの価値はある。

 

●板垣雅夫(いたがき まさお 元毎日新聞記者)  葉山在住

 

 

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